映画への誘い
または 映画についての私見

(2015年 7月 6日)


あらすじ紹介やラストシーンの
私的見解がありますのでご注意ください。
 今回紹介するのは、次の映画です
 ・奇人たちの晩餐会 (1998年) 





  奇人たちの晩餐会 (1998年) フランス映画

基本データ


  ・監督 、出演者名は省略します。


●物語の主な登場人物を紹介します。 (俳優の名前ではありません。)

  ・ピエール    ‥ 出版社の社長
  ・クリスティーヌ ‥ ピエールの妻
  ・ピニョン     ‥ ピエールの晩餐会に招かれた客、税務局に勤務
  ・ルブラン    ‥ ピエールの友人
  ・シュヴァル   ‥ ピニョンの同僚の査察官

  たまにはコメディーも紹介します。

  なお、セリフは記憶に頼って再現しましたので不正確なところが多いと思います。 
  全体の流れでニュアンスをくみ取っていただければ幸いです。




あらすじ

●出版社の社長のピエールは友人たちと定期的に晩餐会を催している。
  晩餐会は各人が、これぞと思う変人を連れてきて、その変人ぶりを皆の前で披露させ
  陰で笑って楽しむという悪趣味なものだった。

  変人本人はバカにされていることに気づかず得意満面である。

  妻のクリスティーヌは、この悪趣味さから夫とケンカして家を出て行く。


●税務局勤務のピニョンはマッチ棒で凝った模型を作る男で、変人ぶりが見込まれて
  ピエールの招待客となった。

  しかし、ピエールは腰を痛めて晩餐会に出席できなくなり、家を訪れたピニョン
  一晩を過ごすことになる。

●出て行った妻を探すため、ピニョンピエールの依頼で各方面に電話をかけるのだが
  これがことごとくトラブルの元になる。

  ピエールは腰が痛いのをこらえて、ピニョンがまき散らすトラブルに対処していかなければならず
  “バカを笑う” どころではなくなってしまった。


●そうこうしているうちに妻は交通事故で入院してしまう。

  またピニョンは、ピエールの愛人からかかってきた電話で、自分が 「バカを招く晩餐会」 の客で
  陰で笑いものにされていたことを知る。


●一晩の騒動を通して、ピエールは己の愚かさを悟り、ピニョンとも和解し
  出て行った妻もピエールの改心を知りメデタシ、となるはずだったが……。




テレビ東京の放送で知る

●外国映画の第2弾はフランス映画です。
  これはぐっと新しく1998年制作。

  10年くらい前にテレビ東京で深夜に放送されていました。
  新聞の番組欄の紹介で、これは面白そうだと思い見てみたところ期待にたがわず良い映画でした。

  ちなみにテレビ東京のこの時間帯には、
  「キューブ」(1997年カナダ)、「ひとごろし」(1976年日本) なども放送されていて
   “いい番組ができたなぁ” と喜んでいたら、すぐに無くなってしまいました。

  こういってはなんですが、やっぱりいい映画ってあんまり視聴率が取れないのかなぁ。

  日本では、外国映画といえばほとんどアメリカ映画ですから、フランス映画なんて珍しい。
  昔のいわゆる名作は大抵見てますが、最近の映画は知りませんでした。

  私の家の近くのツタヤには 「おすすめ作品のコーナー」 にこの映画がありました。



トラブル紹介

  なんといってもピエールピニョンのために巻き込まれるトラブルを紹介しなければなりません。


  ●トラブル−その1

   
ピエールが腰痛で動けないので、代わってピニョンが整形外科の医者に電話をかけようとしたら
   電話帳を読み間違えて
ピエールの愛人宅にかけてしまい
   愛人におしかけられる。


  ●トラブル−その2

   
ピエールの旧友にルブランという作家がいて、今は絶交状態にあるが妻の元恋人なので
   妻が行っているのではないかと疑う。
   電話で “さりげなく” 妻の居所を聞き出すという
ピニョンの作戦は失敗し、
   心配した
ルブランが来訪する。


  ●トラブル−その3

   妻の行き先として怪しい男がいるが、秘密主義なので住所も電話番号もわからない。
   
ピニョンが 「税務局の同僚で査察官のシュバルなら、その男を査察したので知っている」
   と言い出し、査察官を家に入れるハメになる。

   しかし、
ピエールは高所得者にありがちなことだが税金の申告を正確にしていなかったので
   高級ワインや調度品を隠さなければならなくなった。


  ●トラブル−その4

   先の怪しい男の所には、妻は行っていないことがわかったが、
ピニョンが誤って開けた部屋には
   申告漏れの調度品が多数あり、査察官
シュバルにばれてしまう。


●このピニョンという人は、一見しただけで変わっています。
  笑い方がまたヘンテコです。
  日本には いないタイプの俳優さんですが、他にはどんな映画に出ているのでしょうか。
  調べて観てみたいと思います。

●こういったコメディーの鉄則なのですが、俳優はあくまでクソ真面目に演技しなければなりません。
  決して ウケよう、面白く演じよう、わざとズッコケよう、と演技してはいけないのですが、
  この映画では、それが実によく演じられていました。

  また、わざとらしい効果音も無く、それが返って効果的なのです。

  こういう喜劇は、最近の日本映画も見習ってほしいものです。
  私の嫌いな日本映画の題名と俳優さんの名前はここでは挙げませんが、
  ウケを狙ったあざとさは虫唾が走ります。 面白くも何ともなく、腹立たしささえ憶えます。




己の愚かさを知る

●妻のリスティーヌは夫に愛想をつかしていて、病院から 「もう夫には会いたくない」 と言ってきます。

  そこでピニョンはとっさに一計を案じ、自分は医者だとウソをついて
  取次いでもらい妻と電話で話します。

  「私はバカの晩餐会の客です。

   あなたの夫は今夜、人生の大掃除をしました。
   絶交していた友人と仲直りし、愛人との仲も清算し、税務査察官と対決し、
   あの女ったらしの男のところにまで電話したのです。
   あなたを取り戻すために大変な努力をしました。

   どうか彼の元に戻ってください。
   あなたの夫が哀れで、バカの分際で電話しました。」



●妻は、夫が側にいてピニョンに指図して策をこらしているのではないかと疑うが
  ピニョンは、「公衆電話からかけているので旦那さんの指図ではありません。」
  と機転をきかせます。

  さっきまで電話するたびにトラブルを大きくしていたのとは大違いなのでした。


●無言で聞いていたピエールは、ピニョンの誠実で思いやりのある言葉に心を打たれ
  今こそ己の傲慢さと愚かさを悟り、ピニョンにこう言います。

  「僕こそバカだ。」

  そして二度と人をバカと呼ばないと約束します。

  自分の愚かさを自ら認め、素直な気持ちで他者に接する。
  とても美しい場面です。 私はこういうシーンが好きです。


●ところで有名な ビアスの 「悪魔の辞典」 (1911年・アメリカ)には
  天啓 という言葉が次のように記述されています。

  「自分は愚か者であると、人生の黄昏時になって発見すること。」


  まだ人生の黄昏時には間があるピエールと、
  この映画を見た私が天啓に打たれたのは幸福なことです。


最後の、最大のトラブル

●上記のあらすじで、“メデタシ、となるはずだったが…” と書きましたが…、
      :
      :
  クリスティーヌピニョンの忠告どおり夫に電話をかけると、
  側にいたピニョンが反射的に受話器を取ってしまいます。
  クリスティーヌは、やっぱり夫の策略だったと考え、再び愛想を尽かし電話を切ってしまいました。

  ピエールピニョンに向かって 「なんてバカ な奴なんだ。」
  さっきの反省をスッカラカンと忘れて罵倒します。

  ピニョンピニョンで 「バカと呼ばないと言ったじゃないか。」 と反論し
  罵り合いながら映画は終了します。


  やっぱり人間は、そう簡単に賢くなれるものじゃないんだ。

  天啓なんて嘘っぱちだ。



  私は、この人間の進歩の無さ、けれどもどこか憎めないところが好きです。
  バカで間抜けで愛すべき存在。
  映画が終わったとき、笑うと同時に涙を流していました。
      :
      :
  利口ぶるのはいやなことです。
  人を理屈で論破して喜ぶなんて最も愚劣な行為です。
  こういう文章を書くこと自体が、それに当たるかどうかはよくわかりませんが
  私にもそういう傾向がありますので、心していきたいと思います。

  もっともバカにされる方が多いですので、気にする必要もないかもしれませんが。
  この文章を読んでいる方に 「なんてバカ な奴なんだ。」 と思われているなら幸いです。




●この映画では、“バカ” を “con” と言っています。
  ネットの辞書で検索しましたが、どうも淫語(いんご) のようなニュアンスがありそうなので
  もし嫌いなフランス人がいても、面と向かって “コン” とは言わない方がいいようです。


  最後に、
  「あなたは利口だと思いますか?」 という問いに対して
  「もちろん私は利口だと思いますよ。」 と答えられる御仁は、おそらく愚か者です。


  ところで私は‥‥もちろん利口ですよ。 えっ、なにか?






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