将棋・電王戦についての私見
− その4 −


激闘、第4局 持将棋
あじあじ考



ひねくれた感想です。
偏見が入っていますので、
  あまり攻撃的に読まないでください。



激闘、第4局 持将棋

もっとも印象に残った第4局について書きます。
  持将棋については(注1)を参照ください。

  対戦者は、先手・Puella α×後手・塚田泰明・九段
           (プエラ)

闘いの経緯はだいたい次のようでした。

  ・午前10時、対局開始。
  ・序盤 ・・・・・ 戦形は相矢倉。(脇システムというもの)

  ・午前中 ・・・ 先手・ソフトが 「1三桂成らず」 と端から仕掛ける。
            ソフトのやや無理攻めではないか?

  ・昼食前後 ・・・ 検討陣も観客も例によって、プロ棋士持ち。
             しかし、ソフトの攻めが切れない。

  ・午後 ・・・・・・ プロ棋士が、ソフトの優勢とみて入玉を図る。

  ・夕方 ・・・・・・ プロ棋士の入玉は決定的。
             ソフト側の玉を詰ますのは、かなり無理そう。
             しかし、ソフトが入玉を目指さなければ、
             プロ棋士の玉は安全なので、まだ詰ますことができるかもしれない。

  ・夕食の頃 ・・・ ソフトが入玉を図る。
             プロ棋士の勝利は絶望的。 あとは持将棋に持ち込めるかどうか。
             持将棋にするには、プロ棋士側の駒が足りない。

  ・午後8時頃・・・ お互いに入玉。
               (夕食を食べていないので空腹感を覚える)
             ソフトにミスが出て、プロ棋士側が駒を数枚取れた。

  ・午後9時頃、持将棋成立。

  約10時間の闘い、あらすじを紹介するだけで、こんなにスペースをとってしまった。
  これは大事なことですが、持将棋とするには、対局者2人の合意がなければなりません。
  ソフトが合意? これについては後述します。

夕方から夜にかけては、いつ果てるともない死闘。

夕食時間もとうに過ぎた頃、お互いに入玉したが、
  塚田・九段の点数が24点に足りない。
  果たして、あと数枚の敵の駒を取ることができるのだろうか?
  ソフト側は無駄な 「と金」 作りをする一方で、自分の駒を取られないようにも応戦してくる。
  いかに入玉がソフトの弱点とはいえ、もう無理なんじゃないか? もうそろそろ・・・・

  大盤解説の木村・八段からは 「タオルを投げてやりたい」、
  控え室の検討陣からは 「立会人が止めた方が」、
  という声があがったそうである。

  この発言を後で知って、私は怒りを覚えた。
  たった一人で、死に物狂いで指している人間に対してあまりにも失礼ではないか。
  指し手の全責任は対局者のものだ。



午後8時過ぎ、
  大かたの願いがかなって、入玉時のソフトの弱点が現れました。

  ソフト側の角と、塚田九段の金駒二枚の交換が行われました。
  通常の局面であれば、ソフト有利のいわゆる二枚換えなのですが、
  入玉時の点数争いの場合は異なります。 大駒を取った方が有利です。
  そして、塚田九段が大駒を取って、24点に達したのです。

  午後9時頃、ついに持将棋成立。
  塚田九段の孤独な闘いも終わりました。
  ソフトとの闘い、自分との闘い、これは私の想像ですが、このような棋譜を残すことの意味を問う闘い。

  持将棋を初めて見た。
  NHK杯はもちろん、新聞連載にも載らないものなあ。
  リアルタイムで見ていた時は、空腹感もあって私も放心状態だった。 部外者なのに。

塚田先生、直後のインタビューで、声を詰まらせていました。

  この時の本人の心情、周りの反応についてはここでは書きません。
  何を書いても、言葉にすると違ってしまいそうだからです。
  ただ、もしコンピュータに知能があるなら、ここでコンピュータ自身に感想を言ってほしいものです。
  と、無理な注文を出して 「人工知能」 に対するイヤミとしておきます。
  私も相当にイヤミな人間なので。 ソフト開発者の皆様、気分を害さないでください。

互いに入玉後、駒の取り合いになった頃です。
  画面には 「ドロ試合」、「もうやめろ」、「これって将棋なの?」、「まだやってたの」
  というコメントが多数流れた時間帯がありました。
  とてもここには書けないような誹謗もたしかにありました。

  しかし、終わってみれば 「よくやった」、「塚田さんかっこいい」 というコメントがたくさん流れた。
  必死に将棋を指す姿、みんなわかるんですね。
  コメント表示にしておいて良かった。
  あのときは放心状態だったが、今こうして思い出しても涙が出そう。

ソフト開発者の伊藤さんが、塚田九段に向かって
  「持将棋を提案されれば受けます」 と言っていました。
  「コンピュータには持将棋を提案する機能はないから」 だそうです。
  それなら 「提案を受ける機能」 だってないはずなのに。

  ソフト開発者が 「提案を受ける」 ならば、提案をしたってよさそうなものだ。
  伊藤さんの心の内はわからないので、あまり悪く言いたくないが、
  「あなたの責任で持将棋になってしまいました」 と言外に言っているようで厭な気分だった。

しかし、今こうして文章に書いてみると、伊藤さんにしてみれば
  プロ棋士の決断を尊重して待っていたようにも思えてきます。
  ソフト開発者は、パソコンの画面を見ているだけ、と言ってしまえばそれまでですが、
  やはり長くて孤独な闘いだったのでしょう。

  本人と酒でも飲んで話してみないとわからないですけど。
  でも、この人とは酒を飲みたくはないなぁ。

分野は違っても、私もソフト開発者のはしくれとして思うことがあります。
  プエラαにとっても、実戦で初めて走るルーチンがあったかもしれない。
  トラブルが起きないという保証はない。

  私の体験ですが、お客の立会いのとき、私の作ったプログラムが
  「どうか無事に動いてくれ」 と祈っていたこともあります。
  なんか伊藤さんを他人事に思えなくなってくる。 今になって・・・・、意外だ。 (注2)


持将棋成立の前、塚田九段が駒の数を指でさして数えます。
  このシーンが3、4回ありました。
  プロなら指でささなくても一目でわかりそうだが、念には念を入れていたのでしょうか。
  「指さし呼称、よしオーケー」 とは言いませんが。
  塚田先生の気迫を感じるあのシーンには、見ているこちらが励まされました。
  最後まで見ていなければならないと思いました。
  塚田先生自身も、あの動作で気を奮い立たせていたのでしょうか。

まだソフト側の玉が自陣の囲いの中(8八の地点)にいるときですが、

  ソフトに 「入玉のプログラム」 があるのか?
  それとも機械学習で 「入玉の手」 を導き出せるのか?


  ソフト開発者以外にはわかりませんでした。

  「どうか入玉のプログラムに不備がありますように」

 
 こう思っていた方は決して少なくなかったろうと思います。 当然私を含めて。

  コンピュータ側の玉が入玉のそぶりをみせたとき(7七の地点に上がったとき)、
  多くのファンが 「ああぁ、もうダメだ」 と嘆息したでしょう。 私を含めて。

  ここで、大盤解説の聞き手・安食女流プロが 「気がついちゃいましたね」 と言いました。

  ソフトなのに 「気がつく」 って、いったい・・・・

  無力感と絶望感の中、場が和みました。
  安食プロが聞き手で本当に良かった。


あじあじ考

 安食は “あじき” と読みます。

安食女流プロ、数年前にNHK杯で棋譜の読み上げを担当していました。
  必然的に毎週見ていました。
  その頃からのファンです。

  ホワホワっとしてるんです。

「女流界の癒し系」 と呼ばれているそうです。
  将棋ファンの間では、 「あじあじ」 というニックネームであることを、
  ニコ動のコメントで知りました。

  コメントに 「あじあじの周りでは一般相対性理論が成り立たない」 というのが流れました。
  なんだかわかりませんが、なんとなく納得できます。 (???)

  私が唯一、結婚したいと思った女性です。 馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。

  ちなみに人妻です。 いつ結婚したんだろう。

今年の正月に、NHK将棋の特別番組で安食さんが指しているところを見ました。
  勝負師としての表情を初めて見た。

  いつものホンワカした顔と違って、口をキュッと引き締めて、ちょっとこわい顔でした。
  うーん、勝負師っぽい。 魅力的。 見とれてしまう。 スイマセン

第3局では、控え室からの報告担当。
 第4局では、大盤解説の聞き手。
 第5局では、記録係。 棋譜の作成と、残り時間の係です。
         声が聞けなくて残念でしたが、
         三浦・八段のアップのシーンで、左端に少しだけ顔がのぞいていました。

●「安食さん、緊張することありますか?」
  大盤前で、木村・八段の問いかけに
  「今も緊張してますよ」 と答えていました。
  すると、会場では笑いが起こったようです。
  安食さん、「なんでここで笑うんですか?」 と怪訝そうでした。
  カワイイ。 この人と将棋を指したいなぁ。



  コメントではこんなのがしょっちゅう流れていました。
  私は流さなかったけど、ここで書いてしまいましょう。

  「あじあじ、 いいなぁー」


  

(注1)持将棋
  お互いの玉が敵陣に入り(入玉)、双方とも相手玉を詰ますことができなくなった場合に、
  持ち駒を点数化し、24点以上あった場合は、引き分けとするルール。
  飛車・角は5点、その他の駒は1点で計算する。
  玉は除外。
  電王戦では24点制を採用したが、27点制という、より厳しいルールもある。

  将棋には、わかりやすくいうと 「引き分け」 となるものが2つある。
  一つは千日手。同じ手順をくり返すこと。 これはプロ間でも少ないとはいえ、珍しくはない。
  もう一つがこの持将棋だが、こちらは千日手に比べてもずっと少ないようだ。

  このケースがソフトの弱点といわれている。



(注2)プエラαの開発者・伊藤さん
  この人、今回の悪役です。
  自らそう言っていました。
  インタビューで、わざわざ反感を買うような発言をするんです。
  「ソフトは技術的には名人を超えている」 などと。

  本人も自覚している節があって、
  「どうせ、私のこと嫌いなのはわかってます。」 と言いたげです。
  そんなことないですよ、伊藤さん。 好きですよ。 (SI さんに捧ぐ)




No.1 ・はじめに
・電王戦とは
・プロ棋士とは
2013年 4月 27日
No.2 ・初めてニコニコ動画を見て
・プロの読み
2013年 4月 27日
No.3 ・全5局を見て
2013年 4月 27日
No.4 ・激闘、第4局 持将棋
・あじあじ考
2013年 4月 27日
No.5 ・人工知能
・コンピュータの能力とSF
2013年 4月 27日
No.6 ・将棋とプロ棋士への思い
2013年 5月 20日
No.7 ・余談ですが
2013年 5月 20日